エッセイ寄稿「雨の北沢川緑道」フリースタイル47号【その1】

フリースタイルの編集長の吉田さんからご連絡いただき、エッセイを書かせていただきました。テーマは「街」です。思い出の街、今住んでいる街、何でも自由に書いてOK。フリースタイル編集部は下北沢にあります。私も下北沢に住んでいます。迷わず下北沢について書くことにしました。

 ちょうど30歳の時、初めて家を建てました。大好きな下北沢で、小さくてもいいから、家をどうしても建てたくて不動産会社をいくつか回って決めました。あっという間に築20年です。

 下北沢駅まで徒歩15分、三軒茶屋は自転車で10分、澁谷と新宿も近いのでショッピング好きの私にとって最高の場所。近所には、春になると桜並木がとてもきれいな緑道があるんですよ。北沢川緑道といって、緑道に沿って流れるせせらぎ(小川)もお気に入り。ここを通ると、20年間のいろいろな出来事を思い出します。不愉快な出来事はこのせせらぎが全部きれいにしてくれました。

 例えば、家を探していた時に、「下北沢がいい」って言っているのでに、なぜか上北沢ばかりすすめてきた担当さん。見た目は、小泉進次郎さんを若くした感じの男性でしたが、こちらの希望を全く聞いてくれないので、共通言語が違うのかしらと思い他の不動産会社で家を建てました。家が建ってしばらくして、その男性に北沢川緑道で偶然お目にかかりました。「こんにちは」とご挨拶すると真っ先に、「家は決まりましたか?」『はい、下北沢で」「どのあたりですか」と聞かれたので住所を途中まで伝えると、「下北沢っていっても川から下でしょ」と言うのです。別人のように態度が変わり、満足げでとても偉そう。彼のあまりの変わり身の早さに私はついていけず、家に戻って落ち着いて考えてみることにしました。川の上と下で身分が別れる様な言い方でしたので、しばらく惨めな気持ちに……。ただ、不思議なことに、せせらぎをのぞきながら黒パグのゴローの散歩をしていると、いつの間にかその男性が残していったセリフがお芝居のように思えてきて、下北沢のすずなりで座布団に座ってもう一度観てみたくなってきてしまいました。つづく